△△(side:グレン)
「ええと、つまりどういう事かな?」
突如執務室に乱入してきたバレスチカ家次女のリリアーゼ、そして彼女の専属メイドであるロゼに面食らいつつも、僕は何とか平静を保って話しかける。
だけど、いつだって我が道を突き進むこの妹には通用しない。「だーかーらー!1年後にわたくしが入学するフォーチュン学園にロゼをねじ込む為に、この子をバレスチカ家の養女にしろっつってんですの!」
うーんこの。
何をして欲しいかじゃなくて、どうしてそれをしたいのかを教えて欲しいんだよなぁ。「ロゼの事なら前に君が僕に頼んできた事もあるし、もう学園の方とは話を付けてあるよ。彼女を従者として連れていく事を許可しないとリリアーゼが癇癪を起こして学園を破壊してしまうかもしれないと言ったら向こうの方々も納得してくれた」
本来貴族しか生徒になれず、従者を連れて行く事が許可されていない王立学園に特例を認めさせる。
特殊な立ち位置にいるバレスチカ家とはいえ、この要望押し通すのは並大抵の事ではなかったし、こう言った半分脅しに近い手法を使わざるを得なかった。「わたくしは生徒としてロゼを学園に入れたいのですわ。有象無象の連中がこの子をわたくしのおまけとして軽んじるのは我慢なりませんの」
「アーゼちゃん……!」
リリアーゼの言い分にいたく感銘を受けているようだけどロゼ、君騙されてるよ?
そもそもリリアーゼに無理矢理学園に連れて行かれさえしなければ君が貴族の生徒達から軽んじられる事自体起こらないんだからね?「ええとね、リリアーゼ。養女にしろって簡単に言うけど犬猫を飼うのとは訳が違うんだよ?一度バレスチカ家の養女になったら後から『やっぱりやめた』とか言ってもロゼは君の専属メイドに戻ったりはできないからね?」
「んなこたぁ分かってますわ」
「ほんとに分かってる?彼女が君の義妹になった場合、一応義理とはいえ僕や君と対等な立場になる訳だ。そうなったらもう君が普段から彼女に対してやっている従者相手への無茶振りは出来なくなるし、あくまで妹への
「そうなんですの?」
「そうなんですの」
ついオウム返ししてしまった。
リリアーゼは一瞬だけ顎に手を当てて考え込んだが、すぐに結論が出たらしい。「それで構いませんわ。ロゼを養女に迎え入れる手続きと、学園への入学手続きをしてくださいな」
「アーゼちゃん。あたしなんかがバレスチカ家の養子だなんてそんな畏れ多いこと」
「は?たかがメイド風情がわたくしに逆らうんですの?」萎縮するロゼをリリアーゼは一蹴する。
養女に迎え入れるって事はそのメイド風情じゃなくなるってことなんだけどな。「はぁ……分かったよ。父上から君の願いは出来る限り叶えてやれと言われてるし、あの人も反対はしないだろう。もう学園に対して脅しを入れた事実は変えられないけれど、今からでもロゼを従者ではなく正式な生徒として入学させられるならそっちの方がバレスチカ家としても向こう側としても無理がないしね」
それに、ロゼの生まれを考えれば彼女は貴族としての扱いを受けてしかるべき存在ではある。
というかロゼの生家での扱いが酷すぎただけで、彼女は本来身分的にはリリアーゼより上の立場のご令嬢になっててもおかしくはなかった子だ。「ロゼ、君読み書きは出来たんだっけ?」
「は、はい。向こうにいた頃にお母さんから教えて頂きました」
なるほどね。
でもそれだけでは––––「リリアーゼ。ロゼを生徒として入学させるなら当然彼女も君と同じく学園の入学テストを受けてもらい、合格を勝ち取る必要が出てくる。今から彼女に貴族としての礼節と教養を身に付けさせるのは並大抵の事ではないって事は理解しているね?」
これで裏口入学させろとか言ってきたらもうどうにもならない。
その時は白旗を挙げて父上に丸投げする。「ロゼにはわたくしが自ら入試に必要な全科目の知識を叩き込むつもりですわ。お兄様が心配する必要など何もなくってよ」
『君、人様に物を教えられる感性あったの?』とか『君の存在が僕の心配の種だよ』とかつい口から漏れそうになったが何とか飲み込んだ。
下手な事を言って殴られたら損だ。「君がそう言うなら僕から言う事はないよ。スバセ、使用人達にロゼが当家の養女になる事を通達しておいてくれる?あと彼女の部屋と身の回りの物の手配もお願い」
「かしこまりました、グレンぼっちゃま」
いつの間にか自分の分の書類を片付けていたバレスチカ家の家令であるスバセは立ち上がり、一礼すると音も立てずに部屋から退室していった。
彼は有能だし頼りになるのだけれど、僕の事をぼっちゃま呼びするのだけが玉に瑕だ。「……はぁ。手続きの完了自体は数日後になるけれどロゼ、君は今日からロゼ・バレスチカと名乗りなさい。僕に出来る事は限りがあるけれど、何かあったら遠慮なく言ってくれればいいからね」
「かしこまりました、グレン様。この身は不束者なれど、どうぞ宜しくお願い致します」
そう言ってロゼは短いメイド服のスカートの端を軽く摘むと、ちゃんと見れるレベルでのカーテシーの姿勢をとった。
いつも自分に自信がなく、控えめな彼女だが今はどことなく声が上擦っており、気分が高揚しているように感じる。リリアーゼから無茶振り(の一言で片付けていいかは疑問ではある)される事の多いロゼだが、なんだかんだで自分を拾ってくれた恩人である彼女の事を慕っているのは見ていて分かる。
意外とリリアーゼと姉妹の仲になれる事を喜んでいるのかもしれない。……いい子なんだよなぁ。
僕としてもロゼをリリアーゼの避雷針として利用していた自覚はあるし、今回の件でこれまでの彼女の働きに報いる事ができたのならば、いい機会だったんだろう。うん、そういう事にしておこう。
◇
リリアーゼとロゼが退出してから僕は机の上に突っ伏していた。
「……疲れた」
もちろん気疲れだ。
これから父上とフォーチュン学園に連絡を入れなければならない。 父上への手紙は適当でも良いだろうけど、学園に対してはずっと迷惑を掛けっぱなしなので胃が痛くなる。うちが代々古き魔王の力を受け継いできたバレスチカ家ではなく、ただの木端な子爵家だったらとっくにお取り潰しになってるよ。
僕がしぶしぶ筆を取ったその時––––
「あら、お疲れのようね兄さん」
殺伐とした執務室の中に天使が舞い降りた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――― サブキャラクター、グレン・バレスチカのイメージ(AIイラスト)及び設定を載せてあります。https://x.com/niiesu/status/1946046084956197372
https://www.goodnovel.com/book/キャラクター設定紹介用_31001079614/グレン・バレスチカ_13498299
今回いつもの百合乱暴(控えめな表現)とは真逆?の描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――「レイちゃんが!?ねぇ、アルちゃん!それは本当なの!?」「母さん、落ちついて」 『レイライト』という人物名を聞いた途端、血相を変えてアクアルお姉様に詰め寄るマリアお母様。 グレンお兄様は『レイライトが……』と呆然としながら呟いてるし、グラントお父様はいつも無愛想で無表情なのに今は眉が吊り上がって殺気が漏れ出てるしで、お茶の間が凄まじい事になってますの。 話についていけてないのはポカンと可愛らしい口を開けたロゼとわたくしだけ。 ……レイライトってあの【
結局グラントお父様へのご挨拶はアクアルお姉様からの提案で、ダンジョンに修行に行っていたわたくし達3人だけでなく、グレンお兄様とマリアお母様もご一緒する事になりましたわ。 人数が増えたので面会は執務室ではなく食堂でお茶でもしばきながら行う事になりましたの。 わたくしとしてもそっちの方が肩肘張らなくて済むからよきですわね。 ◇ 部屋で少し休息をとった後で食堂に行く道すがらロゼとお姉様と合流、そのまま食堂に入室するとお兄様とお母様、そして黒髪黒目で髭を綺麗に切り揃えた軍服の上から黒のコートを羽織った偉丈夫、グラントお父様が家令のスバセが淹れたやっすい原価のコーヒーを啜ってましたわ。 わたくし達の入室に気付いたお父様は席を立つと大柄な体格に見合わぬ無駄のない動きでまっすぐこちらまでやってきましたの。 お父様はわたくしの父なだけあってかなりのイケオジですけれど、軍服を押し上げる程に盛られた筋肉と、お兄様の1.5倍はある肩幅、無愛想な目つきも相まって中々に迫力がありますわね。「ご機嫌よう、お父様」 「久しぶりね、父さん」 「ご無沙汰してます、御当主様」「うむ、3人とも見違えたな。それでこそ我がバレスチカ家の一員よ」 それぞれの挨拶に対して深く頷くお父様。 バレスチカ家至上主義、バレスチカファーストを信条としている彼にとって、こうしてダンジョンから帰還したわたくし達の成長をその目にするのが嬉しいのでしょう。 立ち振る舞いだけを見るなら立派な当主にしか見えないお父様ですけれど、実際には中々にやべーやつですの。 何せ原作ゲームの『ふぉーみら』において彼は投獄されたわたくしを救い出す際、自分が団長として手塩をかけて育ててきた騎士団員を全員、ついでに陛下を容赦なくぶち◯してますものね。 彼が四天王(3人)としてシャルロット達と相対した時の会話でのキレっぷりも相当アレで、ユーザーからはキチ親父と呼ばれてましたわ。 バレスチカファースト、ここに極まれりですの。 わたくしが原作でのお父様の事を回想してる間にお父様はお姉様と向き合ってましたわ。 何か仰りたい事でもあるのかしら。「強くなったなアクアルよ。冒険者協会には我からSランク昇格試験への推薦状を出しておこう」「私が父さんと同じSランクに……?」「うむ。戦いの経験値さえ除けば今の貴
△△(side:リリアーゼ) セーフティエリアに突如現れた【幻竜王(げんりゅうおう)シャーク・ドレイク】と【処刑者(しょけいしゃ)キルリス】をぶち〇して帰還。 そこで起きた異常事態をダンジョンの受付がある巨大テント内で説明(もちろん面倒なのでアクアルお姉様にやらせましたわ)し終えて、馬車にのり揺られる事3時間。 ようやくバレスチカ子爵家まで戻ってこれましたわ! ダンジョン内ではお姉様の【清浄(ピュアリィ)】があるから不快感はなかったとはいえ、やっとお風呂に入れますの! 食事も十分美味だったとはいえ、毎回シチューのバリエーションでは飽きがくる事ですし、やはり慣れ親しんだ我が家こそ覇権なのですわ! 行きと同じように馬車から先に降りたロゼの手を取ってエスコートしてもらったその時–––– 屋敷の方から爆発音が聞こえたかと思うと凄まじい勢いで土煙を上げながらこちらに向かって爆走してくる者がおりましたの。「アクアルゥ〜〜ッ!!!」 予想通り、その者は赤いタキシードを着た黒髪黒目のシスコン……ではなくグレンお兄様でしたわ。 こちらまで走ってきたお兄様は涙をぽろぽろと流しながら、馬車から降りたお姉様の手を取りましたの。 必死すぎてキモ……いえ、お姉様に抱きついてお胸に顔面ダイブをかましたりしないだけまだ分別がある方なのかもしれませんわね。 わたくしがお兄様の立場だったらロゼの全身をくまなく撫で回してるところですわ。「よかった!僕は君が無事に戻ってきてくれるか心配で心配で……夜しか眠れなかったよ!」 夜眠れりゃそれで充分だろーがですわよ。「もう、大げさなんだから兄さんは。ちょっと……それなりのトラブルはあったけど私達はそう簡単にくたばる程ヤワじゃないわ」 そう言うお姉様は呆れたセリフとは裏腹に、頬を赤らめていて満更でもなさそうでしたわ。 傍から見るには割と脈もありそうな気もしますけれど、お兄様はイエスシスターノータッチが信条ですし、そもそも婚約者(お姉様の親友)がいるからR18な事にはならなさそうですわね。「ロゼもお疲れ様だったね。こうして立ち姿を見ただけでここを出る前より数段成長したのが感じ取れるよ。疲れてるだろうし、今日はゆっくり休みなさい」「ありがとうございます、グレン様。アーゼちゃんとアクアル様のお力のおかげで何とか頑張れました!」
「世話になりましたわね、お姉様」 リリアーゼからかけられた言葉に私は呆気に取られたわ。 高慢ちきなこの子が素直に礼を言うなんて……。「あとはわたくしがやりますの。手出しは不要ですわ」「……リリアーゼ」「臭––––「うっせぇですわ!!」 苦情を漏らした私を怒鳴りつけつつ先程吹き飛ばした、紫色の金属で全身を覆う瞳が真鍮でできた魔物の下へと歩みを進めるリリアーゼ。 そんな彼女と入れ替わるようにロゼ色の髪と瞳をした、丈の短いスカートのメイド服に身を包む少女、ロゼが刺激臭を撒き散らしながら駆けつけてきたわ。「アクアル様、ご無事ですか!」「ロゼ。悪いけどちょっと離れ……いや、やっぱりいいわ。【清浄(ピュアリィ)】」 呪文を唱えるとロゼの身体が鈍く発光し、彼女から漂うヘドロのような酷い臭いが掻き消えた。 良かった、私の【清浄(ピュアリィ)】はこのレベルの臭いにも効くのね。「ありがとうございます!あの……これ使ってください!」「頂くわ」 私はロゼからハイポーションを受け取ると、そのまますぐに飲み干す。 普段なら高額なハイポーションなんて使わずに自分で傷を癒す所だけど、魔法の連続使用で精神的に疲弊しすぎてるし、それにここに来てから手に入ったドロップ品を売りさえすれば使った費用に関してはすぐ戻ってくるわ。「アーゼちゃんは勝てるでしょうか?」 私の隣に立ち、現れた魔物とリリアーゼの対峙を見届けるロゼがオドオドとした様子で訊ねてきた。 まぁ、不意打ちとはいえリリアーゼはあの魔物の攻撃で死にかけたんだから不安にもなるわよね。「ロゼ。私がアレと戦い始めてからどれだけの時間が経ったか分かる?」「あ……申し訳ありませんアクアル様。アクアル様のおかげであたしもアーゼちゃんも命を拾––––」「いや、別に嫌味を言いたいわけじゃないから」 フォーチュン学園の学園長が朝礼台の上でよくやる『今、皆さんが静かになるまで〜〜分かかりました』的な寸劇をしたかった訳じゃないのよ?「私があの魔物と戦って保たせた時間は約3分。そんな相手にリリアーゼがもし本気を出したら––––」 ちょっと得意げに微笑んで答える。「30秒でケリがつくわ」 ドン!!! 前方から大きな衝突音が聞こえてきたわ。 その音の正体は体勢を立て直した魔物の顔面にナックルダスターを装備したリリアー
△△(side:リリアーゼ) んん……くっさ。 なんなんですの、この酷い臭いは。 血を流しすぎたせいか、意識が朦朧としていたわたくしは先程から鼻先を掠め続ける腐った生ゴミみたいな臭いに辟易していましたわ。 それにさっきから唇に生温い水らしき物が触れてきやがりますし、とんでもなく不快ですの。 この不快さから逃れる為に目を開けたいのに瞼が上がらない、そんなもどかしい状況が続く最中、不意に唇に柔らかくて温かい感触が伝わってきましたわ。 不思議な触感を持つそれはわたくしの口内へと侵入し、何かを渡そうとしているように感じられましたの。 わたくしはその正体を確かめるべく、重い瞼を開いて––––。 ……ロゼ? 目覚めたらロゼ色の瞳と髪の少女、わたくしの最愛のメイドであり義妹でもあるロゼと唇を合わせている事に気付きましたの。 あぁ、これは夢ですわね。 だってあまりにもわたくしに都合が良すぎますもの。 ロゼの可愛らしい顔がどこか苦痛に歪んでいるように見えるのはおそらく、この夢がわたくしが彼女に百合乱暴(控えめな表現)しているシチュエーションなのだからでしょう。 だいぶ溜まってますわね。 でもどうせ夢なのだから楽しまなければ損ですわ。 わたくしは夢の中の彼女の口内を蹂躙しようとして–––– 流れ込んできた液体のあまりのまずさ、苦さ、そしてヘドロみたいな臭いに盛大に咳き込みましたわ。「ぶええええぇっ!?くっさ!!?まっず!!??なんなんですの、これは!!!」「アーゼちゃん!良かった……」 意識を取り戻したわたくしに抱きついてきたロゼをなるべく乱暴にならないよう優しく押し戻しましたわ。 いえ、普段なら喜んで受け入れるし、ついでにどさくさに紛れて太腿やらお尻やらを撫でてるところですけれど、ロゼからさきほどわたくしが感じたヘドロのような臭いがするので流石にそんな気分にはなれませんの。 むしろ突き飛ばして罵倒しなかっただけ偉いと褒めて欲しいぐらいですわ。 ……あら? ちょっと時間を置いた事でぼんやりした頭が回ってきて、そのせいでわたくしは気付きたくなかった事に気付いてしまいましたわ。 ……もしかして今のでわたくしのファーストキス、しかも待ちに待ったロゼとの交わりは終わりなんですの?「……ロゼ、状況を説明なさい」 ふううううぅうう。 落ち着
△△(side:ロゼ)「アーゼちゃん!?」 幻竜王シャーク・ドレイクを倒し、アーゼちゃんがようやく一息付いたその時―― まるで彼女の影から這い出るようにして全身を紫色の刃物で覆ったような魔物が現れ、アーゼちゃんの背後から何かを突き刺したのが見えました。 アーゼちゃんの胸から長剣が飛び出し、大量の出血が引き起ります。「う……あああああああああああ!!!」 目の前が真っ赤に染まり、怒りの感情が頭の中をグルグルと駆け巡りました。 あたしは手の中にある短剣を握りしめると、すぐさまアーゼちゃんを手にかけた魔物に飛びかかろうとして―― 既に行動を起こしていた人物がいた事に気が付きました。「【激流加速(アクアブースト)】––––はあっ!!」 アクアル様です! 彼女は足元から水の魔法を噴出する事で推進力を得た事で高速で飛び出すと、そのままアーゼちゃんにトドメを刺そうとした魔物に薙刀で斬りかかったのです!「ロゼ!リリアーゼを回収してすぐに治療しなさい!このままじゃ全滅するわよ!」「は、はいっ!」 そのまま現れた魔物と斬りあいになるも、冷静に指示を飛ばすアクアル様を見て、ようやくあたしも我を取り戻しました。 そうです。 ここであたしが怒りのまま戦いを挑んだところで、返り討ちにされるのは目に見えているという物です。 あたしは今、あたしにしかできない事をしないと!「アーゼちゃん、すぐに治しますから!」 アクアル様が現れた魔物を引き付けている間、あたしはすぐさまアーゼちゃんの傍まで駆け寄り彼女の身体を抱えると、20m程離れた場所まで移動しました。 ◇ 「早く……早く何とかしないと」 アーゼちゃんの身体を地面に横たえると、あたしはすぐに収納袋の中を漁り始めます。 ――あった! 取り出したのは瓶詰めにされた濃い蒼色の液体。「ハイポーション!これさえあれば––––」 治癒魔法程ではないものの、怪我や傷を驚くべき早さで治す秘薬であるポーション(1本5万ゼニン)。 ハイポーションはその上位の性能を有しており、その効力は治癒魔法と同等、場合によっては上回る事すらあると言われている程です。 そしてバレスチカ家ではこのハイポーション(1本50万ゼニン)がなんと!当家の子息子女に対して一人につき5本も支給されているのです! これだ